『麒麟がくる』最終回を見終えて
終わった・・・終わってしまいました。
こんなに毎週楽しみにして見続けたドラマは初めてかもしれません。
まずは。
出演者の皆様、スタッフの皆様、1年間お疲れ様でした。素晴らしいドラマをありがとうございました。
オリンピック開催で話数短縮が決まっていた上、主演女優が交代して撮影し直し、そしてコロナ禍と、次から次へと降りかかるような困難を跳ね除けて、年までまたいで、よくぞ完結してくれました、という感謝の思いでいっぱいです。
「麒麟がくる」は、これまでの通説や俗説と言われる描写が少なく、歴史ファンの人にとっては「おぉ!!そう描いてくれたんだ!」という喜びで、普通に歴史ドラマが好きな人には「えぇ?それやらないの?」という驚きで、どちらにしろ多くの人にとって「なんかいつもと違うぞ?」というドラマだったのではないかと思います。
私自身にとっては、ちょっと大げさかもしれませんが、人生に新しい興味と新しい視点をもらたすキッカケになってくれたドラマだと思います。
一年前を振り返ってみれば「三好長慶?名前は知ってるし有能で不幸だったってことくらいは知ってる。」程度だったのに・・・第6話で気になり始め、半年後には、ブログに長文書いたり、三好邸の3Dモデル作ったりしてるなんて誰が想像できようか?(反語)
勢いよくハマりすぎて、周辺の沼にも片足を突っ込みつつ水しぶきを撒き散らしているような気もしますが。
それはともかく。
新しい研究成果から史実と思われることを多く取り入れつつも、ドラマとして作られた登場人物のストーリーが破綻することなくまとまっているという点が、ホントにお見事、さすが池端先生・・・!でした。
「麒麟がくる」に出てくる登場人物って、所謂、悪役という人がいなかった気がします。
皆、それなりのバックグラウンドがあって、対立することになっても、ああそうなるよね・・・という理由が神の視点(視聴者)からだと分かるように描かれている。
斎藤道三も、斎藤高政も、朝倉義景も、足利義昭も、羽柴秀吉も、松永久秀も、そして、織田信長も。
って、ここまで書いて、摂津晴門さんと三好三人衆のことが頭を過りましたが、そっと目をそらし。
その登場人物を演じきって、更に新しい印象まで作り上げた役者さん達もホント素晴らしかったです。
以下、特に印象に残った人たちについて、感想を書き綴ってみます。
明智十兵衛光秀/長谷川博己
「明智光秀」というと、上品で真面目でインテリでこれまでの権威やしきたりを大切にする人というイメージだったり、有能でキレキレで上昇志向強い人というイメージだったり、こんなに両極端に振れる人も少ないんじゃないかと思いますが。
「麒麟がくる」の光秀は、有能なんだけど鈍感で、どこまでも真っ直ぐに麒麟を追い続ける人、だったと思います。
信長に麒麟の片鱗を見出してからは、一緒に大きな国を作るために奔走しますが、信長が理想からズレてくると悩んで苦しんで最後には本能寺の変をおこす。信長側からしたら、理想を押し付けられた上に違ったので謀反、という何とも理不尽な気もしますが、「理想と違った」の違い方が笑ってすまされるレベルでは無かったのが双方にとって不幸でした。
ルイス・フロイスの「裏切りや密告を好み」という光秀評からは対局な気もしますが、本能寺はともかくとして、真っ直ぐすぎる故に他が目に入らなくなって、見る側が違えば裏切りじゃないの?というようなヒヤッとする場面も何回かあったように思います。
光秀にとって、一番色濃く麒麟の幻影を見せてくれたのは、信長じゃなくて義輝だったんだろうなあ、と思うのです。
本能寺の前で、義輝が登場した時、将軍オーラに圧倒されて思わず跪いてましたし、この人が麒麟!と思ったんじゃないかな。
ただ・・・とても残念なことに義輝は麒麟ではなかった。
それでも、中途半端に義輝が消えてしまったからこそ、光秀は「室町幕府の将軍」を引きずって、本能寺トリガーがオンになってしまったんじゃないかと。
つまり悪いのは三好義継と松永久通?
個人的には、実は、一年前までは一番好きな戦国武将は明智光秀だったのです。
それが明智光秀主人公の大河ドラマの放映中に、二番目に転落するとは・・・いやでも、ドラマの光秀を見て転落したわけではなく、むしろ好感度は上がりまくっていたんですが、さらに上をいった人がいただけで・・・
「麒麟がくる」の光秀は、歴代最高の光秀でした!
織田信長/染谷将太
こんな信長いたか・・・?いないよ!でもこれが信長だ!!
「麒麟がくる」で従来イメージをひっくり返したと見せかけて実はそのままだったのかも。
史実の信長がどんな人だったのかは、ぶっちゃけた話、信長本人に聞かないとわからないと思うのですが。
人に優しいところもあり、無邪気なところもあり、周りの目を気にするところもあり、幕府や朝廷を大事にするところもあり、でも、大虐殺するし、家臣追放するし、パワハラするし、魔王だし。
これらが全部、愛情不足からくる承認欲求の塊、という一本で繋がったのがもうお見事としか言えないです。
最初は信長ぽくないと言われていたのに、回を重ねるごとに違和感が無くなっていったのは、染谷さんの演技力のおかげですよね。本当にすごかった。
信長を思って泣ける本能寺がこれまでにあったか?
足利義輝/向井理
この人にこんなにオーラさえ無ければ・・・光秀はある意味、幸せだったのかもしれない。
本能寺の最初の登場シーン、朽木谷での雪を見ながら涙を流すシーン、そして最後の永禄の変の立ち回りが鮮やかで眩しすぎて、途中の記憶が薄れている感もありますが、「麒麟がくる」の中では、決して悲劇の剣豪将軍というだけではなかったです。
近衛前久に感情的に怒ってみたり、三好長慶の前で不貞腐れてみたり、三好長慶の死を知って不敵に笑ってみたり、将軍としてのプライドはありますけど・・・能力には疑問符がつくかも?という描かれ方をされていたのが印象的でした。それでも、それを覆い尽くす将軍オーラに、藤英も藤孝も光秀も(私も)目が眩んでしまったのではないかと。
でもさあ!
そんなのどうでもよくなるほどに、カッコよかったよ!(まだ眩み中)
三淵藤英/谷原章介
最初にキャストを見た時、義輝の側近としてのメインは細川藤孝で、三淵藤英は脇だろうな、と思ったのです。
でも、違った。逆でした。
認知度の上昇率でいったら、トップなのでは、という人。
突っ走りがちな弟を抑えながらも、義輝のために松永久秀とバチバチにやり合ってる姿だったり、義輝死後は、義昭のために毒殺も厭わなかったりと、現実を見据えた冷静な室町幕府の忠臣かと思いきや・・・義昭に無理矢理、義輝の姿を重ねようとしているところが狂気じみてもいたり。室町幕府ではなく、義輝の忠臣だったのか、義輝の死で何かが変わってしまったのか。
最後の「捨てられる花にも、一度は咲いてみせたという誇りが有るように見える」というセリフが本当に心に残っています。
細川藤孝/眞島秀和
最初は、向こう見ずだったり、義輝のために涙を流していたりしたものの、最後になってみれば、なんだーやっぱり僕らの知ってる細川藤孝だった!という、今回、ある意味一番期待を裏切らなかった人。
いやでも、これぞ細川藤孝ですよ。実は一年前まで二番目に好きな武将でした。今は(略)
一体、何が彼を変えてしまったのか、とも思うのですが、やっぱり義輝がドンドン不貞腐れていって、間近で現実を見てしまったことが大きかったのでしょうか。お兄さんよりも熱い分、冷めるのも早かったのかも、とも思います。
この辺りの描写とか、光秀に対する思いとか、文化人の側面とか、もうちょっと掘り下げて欲しかった・・・という気もしますが、現実的な事情があっただけに難しかったのかなあ。残念です。
光秀と最初に会ったシーンで、緊張感バリバリで対峙してたのに、挨拶したらフッと力が抜けたシーンが印象的です。世渡り上手の片鱗とも見えるし、まだこの頃は純粋に感情を表に出せていたのかもしれない。
近衛前久/本郷奏多
ハマりました。中の人に。
顔がいいし、声がいい。おまけにオタク。完璧。
近衛前久としては、線が細くてプライドの高い貴族・・・かと思いきや、変装して各地を飛び回っていたり(逃げ回っていたり)と、近衛前久のイメージそのままでした。
いやでも、顔が良いし、声がいい。おまけにオタク。最高。
徳川家康/風間俊介
家康は、史実を知る限りでは、そんなに光秀と絡んでいないですよね。
金ケ崎で顔を合わせたかも?と、武田攻めの帰りにあったかも?くらいで、はっきりと顔を合わせたのは安土饗応くらいでしょうか。(うろ覚えなのでもっとあったらすみません。)でも、平和な世の中を最後に築いたのは家康で、ドラマでは、そこに繋がるように子供の頃から伏線が張り巡らされていました。
風間さんの家康は、家臣団と床をドンドンしていたりと、若いのに芯の強さをもった家康で良かったですね。
2023年大河がんばって!
足利義昭/滝藤賢一
義昭は、これまで「信長のおかげで将軍になれたのに勘違いしちゃった人」というダメダメなイメージや、切れ者だったとしても「お手紙将軍」という描かれ方が多かったと思うのですが・・・そして、そのイメージは割と踏襲されているかな、とも思うのですが。
こんなに愛せる義昭はいなかった!
「麒麟がくる」の義昭は、すごく人間くさいんですよね。根底にあるのが、民を一人でも幸せにしたい、という優しい思いだったりしながら、将軍になったら舞い上がってみたり、すぐ前言撤回して「信長大嫌い」と言って敵対してみたり。
それでも全てが破れた後に、鞆で魚釣りをしている義昭は、自分の限界だけじゃなくて室町幕府の限界までも理解しきったんだろうなあ、と思います。だから、あの魅力的なテヘペロが出てきたんだろうな、と。
最終回になっても登場して、小早川隆景に対する不満を盛大にぶちまけてましたが、あれは半分本音で半分は駒ちゃんに対する見栄とカワイイ嫉妬混じりだったんじゃないでしょうか。最後まで人間らしく、でも立ち去る後ろ姿は「俺は将軍だ。最後のな!」という、清々しいプライドを感じました。
松永久秀/吉田鋼太郎
吉田鋼太郎さんが松永久秀を演じてくれて、良かった。本当に良かったです。
「梟雄」というこれまでのイメージから、最初は「コイツ、いつか裏切るんじゃないの?」という疑惑を持たせつつも、実は光秀にだけは人懐っこく本音を見せるカワイイおじさんだったなんて、吉田鋼太郎さん以外に誰が演じられるでしょうか。
主家殺し・将軍殺し・大仏炎上の「三悪」を成し遂げた悪人、というイメージも見事に払拭してくれまたし、(何故か期待されていた)平蜘蛛と共に爆死ではなく、炎上する城の中での立ったままの切腹、というのも、爆死と同じくらいのインパクトで、この最期で良かった、と思える姿でした。
第6話の「殿ー!お逃げください!」以降、三好の忠臣という分かりやすい描写は無かったですが、三好長慶がいなくなった後になって将軍の権威に気付いてみたり、大和に対して異常に拘ってみたり、ずっと信長のことを「信長殿」と呼び続けていたり。
もしかしたら松永久秀本人も自分を三好の忠臣とは思っていないのかもしれないですが、薄っすらと、三好長慶はすごかったな、という思いを内心は持っていたんだろうな、という描写が見え隠れしていた・・・というのは、三好フィルターかかりすぎでしょうか。
三好長慶/山路和弘
語り尽くせないくらい「三好長慶」という人にハマりました。
初登場の第5話放映時点では、大物っぽい!というだけのイメージだったのに、第6話で皆に助けられる姿が何故か心に残り、そこから色々調べて本を読んだり色んな方のブログを読んだりして・・・今では、ドップリです。
「麒麟がくる」の中では、登場回数こそ少なかったですが、足利義輝や松永久秀の言動から、いかに三好長慶が大きくて当時の畿内を仕切っていたか、が読み取れる描写になっていて、それだけで嬉しい限りでした。
演じられた山路さんがまた貫禄たっぷりで、足利義輝にとっての大きな超えられない壁で、松永久秀が偉大さを実感する三好長慶として、完璧だったのではないかと思います。だって、ここで実年齢に近いイケメン三好長慶が出てきたら、もう視聴者も光秀も「アナタ、麒麟ですよね?」で物語終了ですよ。
史実での三好長慶が何を目指していたのかは、知れば知るほどによく分からない、というのが正直なところではあるのですが、父親の敵の細川晴元に仕えるところから始まり、雌伏して徐々に力を蓄えていつしか敵よりも大きくなって、一時期は将軍でさえも必要としなくなり、それでも将軍と晴元を呼び戻すという、ドラマ性たっぷりの人物です。ホントに、いつか、いつか大河に!
ということで。
印象に残って時々イラストを書いていた登場人物だけ書き綴ってみましたが、斎藤道三とか朝倉義景とか羽柴秀吉とか正親町天皇とか、他にもまだまだ沢山印象深い人がいました。書ききれない。
これまでの大河だったら絶対丁寧に描くよね?という合戦がナレーションでぶっ飛ばされたり、ナレ死も横行し最期は主人公までナレ死という、ホントに色んな意味で異色の大河でしたが、いい大河ドラマだったなあ・・・というのが、最後の感想です。
光秀の最後のシーン、そして長谷川さんからの続編を期待させるメッセージと、その後がぼんやりとしているのも、個人的には玉虫色でいいんじゃないかな、と思います。本能寺の変の原因説もこれでもか、ってくらい取り込んでましたが、おそらく原因は一つではないだろうし、こっちが正しくてそっちが悪い、という描写をトコトン避けて、両方の視点と感情を描いた大河ならではの結末のようにも思います。
続編やスピンオフは、見てみたい気もするし、これはこれで終わっておいて欲しい、という気もします。
20年後くらいに、長谷川さんがサラッと南光坊天海の役を演じてくれたら、ニヤリとしたいなあ。